7月21日(日曜日)キッズラップで 第10回「こどもとおとなの哲学カフェ」~食べることを哲学する が開催されました。
ファシリテーターは、哲学者・小川仁志先生です。
小川仁志(おがわひとし)教授
1970年、京都生まれ。哲学者。山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。
商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)、徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職という異色の経歴をもつ。
大学で課題解決のための新しい教育に取り組む傍ら、「哲学カフェ」などの主宰を通して、「市民のための哲学」を実践している。
また、テレビをはじめ各種メディアにて、哲学の普及に努めている。NHK・Eテレ「世界の哲学者に人生相談」や「ロッチと子羊」では指南役を務めた。
専門は公共哲学。著書は100冊をこえる。
「食べることはなぜ大切なんでしょうか?」
哲学カフェは、いつものように小川先生の質問からはじまりました。
「生きるために必要だから。」
「マナーを学ぶため。」
参加者から次々と意見があがります。
小川先生はひとつひとつの意見をさらに深めるために、ふたたび質問します。
「食事のマナーって人間だけでしょうか?」
「好き嫌いって、考えや知識で変わることがありませんか?」
「サプリだけで食事が済んだら、そのほうが良いって人、いますか?」
参加者は、「食べること」をとりまくさまざまなテーマを 小川先生といっしょに哲学します。
「サプリだけで済んだら時間の節約になるので助かる。」
「サプリだけの食事だとよろこびがない。」
「サプリだけで栄養をとるようになると、”命をいただいた” ということが見えなくなるのでは?」
小川先生はさらに問います。
「命をいただくことになにかの理屈をつける行為も、ほかの命の価値をうすめていることに変わりはないのでは?」
マナーの話にはじまり、動物と植物の違い、ビーガニズムという考え方、人間と自然界とのつながり、レストラン経営者の立場、時間の節約、ダイエット、魚釣りの楽しさと動物の権利… 話題はどんどんと展開します。
哲学カフェのだいご味ですね。
さて、今回の哲学カフェで、小川先生はさまざまな哲学者の言葉を紹介しました。
レポートの後半に入る前に、名前のあがった3人の哲学者について振り返ってみましょう。
1人目は、古代ギリシアの哲学者・エピクロスです。
エピクロスは、たのしみや安心を人生の目的と考え、「必要であり自然な欲求」だけを満たすのが一番良い人生だと言いました。エピクロスは、食事を「友情、健康、衣服、住居を求める心と同じように、必要であり、自然な欲求だ」と考えました。
もうひとりは、ドイツの哲学者・フォイエルバッハです。
フォイエルバッハは、それまで多くの人が信じていた「魂と肉体」を別々に考えることを間違いだと言い、人間の本質を「食べること」のなかに見出しました。
また、「食べること」は口を使って食べるだけではなく、目や耳も使っている、心で感じたり、考えたりすることも「食べること」のなかに入っていると言いました。
最後のひとりは、イタリアの哲学者・コッチャです。
コッチャは「食べること」は命と命がつながることだと言っています。
太陽の光や水、土のエネルギーで育った植物を食べることで、私たち人間はその命を自分の命のなかに取り込んでいます。
こうしてひとつの命はつぎの命に形を変えながらつながっているとコッチャは考えました。
哲学カフェが終盤にさしかかると、参加者からは「食べること」をめぐって、新たな気づきや疑問の声があがりました。
「食べることは自由と結びついているのではないか。」
また、こんな声もあがりました。
「人間が食べることと、動物が食べることの違いがわからなくなった。」
これに対して、小川先生は「わからなくなることも大切」と言います。
小川先生によれば、「哲学とは、自分の頭で考えることによって、思い込みや常識を乗り越えるための方法」なのだそう。
そう考えると、疑問に思うこと、わからなくなることは、思い込みを乗り越えるための大切なステップと言えるかもしれません。
「食べること」の本質をみんなで考えた1時間も、そろそろおしまいです。
最後に、今回の「こどもとおとなの哲学カフェ」を小川先生にまとめていただきましょう。
「食べるとは命をつなぐ糸。だって、eat (イート) だから」
小川先生、参加者のみなさん、ありがとうございました。
小川先生の次回の登壇は、9月の「著者トーク」です。詳細は追ってお知らせします。こちらもどうぞおたのしみに♪
(写真:哲学者・小川先生に自分の意見を述べる子どもの参加者。)