9月29日、作家・翻訳家のはしづめちよこさん、まちライブラリーの提唱者である礒井純充さんを迎えて「著者トーク」が行われました。司会は、哲学者の小川仁志先生です。
「ぼくは いま じぶんにできることを しているのさ」
今回とりあげたのは、はしづめさんの企画した絵本『ちいさな ハチドリの ちいさな いってき』。
著者トークは、はしづめさん の朗読で始まりました。
物語のあらすじ:
ある森にちいさなハチドリが住んでいました。
小さなハチドリはいつもマイペース。ほかの動物たちと違ってなんにも自慢しません。
そんなハチドリを、みんなは「変わってるな」と思っていました。
ある日、動物たちの住む森が落雷によって火事になります。
小さなハチドリは、その小さなくちばしでみずを運んで その火事を消そうとします。
そんなことをして、本当に火が消せるのかと遠巻きに見ている動物たちに、ちいさなハチドリは言います。
「ぼくは いま じぶんにできることを してるのさ」
その小さな働きは、やがてまわりの動物たちの意識も変えていきます。
はしづめさんのやさしい声は、いきいきと動物たちを描きだします。
朗読でこころがあたたまったあとは、いくつもの絵本を手がける はしづめさん に、小川先生から質問です。
小川先生:「はしづめさん が本を出すうえで、大切にしていることってなんですか?」
はしづめさん はこう答えました。
「まずは、自分が好きな本であること。
つぎに、子どもが読んで救われること、本の中によろこびがあること。あと、絵がきれいなことも大切。」
海外の本にもくわしい はしづめさん によれば、ヨーロッパの絵本の中には、残酷で救いのない結末のものも珍しくないのだとか。
はしづめさんは、「救いがないものはだめ。救いがあるように」と繰り返しました。
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『週刊エコノミスト』でこの絵本をとりあげ、大きな反響があったという小川先生によれば、はしづめさんの絵本には3つの共通点があるのだそう。
1.日常の中でなにかに「気づく」
2.”気づき” をきっかけにして、「成長する」
3.物語を読んだあと、余韻がのこる。
たしかに、はしづめさんの朗読をきいて、「ひとりのちから」に気づき、社会の中で生きる勇気をあたえられた気がしました。
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小川先生は、はしづめさん の絵本のひとつ、『すごいぜ ほんのちからって!』にも、「無力感」から「個の力」への気づき、そして「世界を変える様子」が描かれていると言います。
実は、作家・翻訳家である はしづめさん は、児童書専門店のなかに「まちライブラリー@ブックハウスカフェ」を設置し、本の街・神保町で、本を通じたコミュニティづくりを実践しています。
まちライブラリーとは、2011年に礒井さんが提唱した、まちのなかにみんなが本を持ち寄ってコミュニティをつくる活動です。
礒井さんによれば、はしづめさん の主宰する まちライブラリー は「行くたびに、みんなの顔が明るくなっている」のだそう。
地域も、ひとも明るくする – そんな「まちライブラリー」はどうやって生まれたのでしょうか?
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小川先生は「まちライブラリー」の創始者である礒井純充さんに まちライブラリー の成り立ちについて尋ねました。
礒井さんによると「もともと まちライブラリー は、組織で行き詰っていた自分の救い・逃げ場所として始めた」のだといいます。
「ぼくにはお金もない、仲間もいない、自分にはなにもできない、目標がみつからない、世の中がとても苦しい ― そんなふうに多くの人が思っているかもしれない。自分もお金のない、ただのサラリーマンでした。でも、一人の力でどれだけできるか、半分ひらきなおって、実験で始めたのがまちライブラリーなんです。」(礒井さん)
「自分の逃げ場所くらいはつくれるだろう」と思って続けた活動は、その後、全国1100カ所以上に広がりました。
全国の仲間たちの活動がそれぞれに実を結ぶ様子をみて、礒井さんは感じます。
「個の活動は、ちいさなハチドリと同じで、一見すると “そんなことして意味あるの?”という活動を通じて、自分も変わっていく、まわりのひとも変わっていく。”まわりに仲間が増えました”とよろこんでいる人たちをみると、そんなふうに伝染していくんだなと。」(礒井さん)
今回のゲストである はしづめさん は、絵本の企画・翻訳、まちライブラリーの運営のみならず、個人、まちライブラリー、書店、出版社を巻き込んで、「本の公共圏」をひろげ、子どもに本を買って贈る活動も実践していらっしゃいます。
はしづめさんご自身も「小さなハチドリ」として、世界を変えているんだなと思いました。
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「みんな」とは目の前の人のこと
ひとりの個人として、まわりのひとたちを巻き込みながら活動をひろげていく はしづめさん と礒井さん。
「どうしたら、おふたりみたいな “公共のひと” になれるんでしょうか?」とたずねる小川先生に、礒井さんはこう話しました。
「みんな」とは、本当は目の前の人のことなんです。
ぼくは、前は全員を救いたいと思ってた。
そうすると、目の前の一人の声だけを聴くわけにはいかない。
そして、結局、何もしないことになる。「みんな」が「なにもしない」につながっていた。
「キッズラップ」の金子淳子先生や、「風の電話」をつくった佐々木格さんは、
目の前の一人を助けようとする。
そしてそれが、結果として、「みんな」を助けることにつながっている。
「人が読める本は限られている。」と礒井さんは言います。
「一生の中で「会う人」も限られている。すると、目の前の人は、大事な一人なんですよね。」(礒井さん)
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「公共・本・哲学」と重なる点の多い3人が登壇した今回の「著者トーク」。
当日は、立ち見が出るほどの盛況でした。
はしづめさん、礒井さんの世界観が気になった方は、ぜひおふたりの本を手に取ってみてください。
きっと多くの気づき、励ましがあると思います。
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さて、今週末、10月20日(日曜日)は「かねこキッズまつり」です。
地域のみなさま、企業のみなさまに支えられ、かねこキッズまつり は今年で19回目を数えます。
たくさんのご来場をお待ちしております♪
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「著者トーク」で話題にのぼった本
◆はしづめちよこさんの本
『ちいさな ハチドリの ちいさな いってき』(イマジネイション・プラス)
ISBN: 978-4-909809-38-4
『ネネット – こころのなかに とりのつばさをもつ おんなのこ』(アンドエト)
ISBN: 978-4-910204-05-5
Cコード:C8798
『あきの おわりの てんこうせい』(イマジネイション・プラス)
ISBN: 978-4-909809-42-1
『あおを はっけんした ちいさな ヤン – みならい えかきの おはなし』(イマジネイション・プラス)
ISBN: 978-4-909809-50-6
『すごいぜ ほんの ちからって! ~ モーリスの おうちは ライブラリー』(イマジネイション・プラス)
ISBN: 978-4-909809-55-1
◆礒井純充さんの本
『「まちライブラリー」の研究|「個」が主役になれる社会的資本づくり』
ISBN: 978-4-622-09648-1
Cコード:C0036
◆小川仁志先生の本
『公共性主義とは何か 〈である〉哲学から〈する〉哲学へ』
ISBN: 978-4-86624-023-7
◆また、はしづめさんの活動に関心がある方には、はしづめさんへのインタビューが掲載されているつぎの雑誌をぜひご一読ください。
カワズ第3号(日本語・英語の2言語表記)